上手に主張できるようになるために

最終更新日:2017/05/27
執筆者:華郷(@ka_kyo)

1.はじめに
 競技かるたにおける「主張」は時に「揉め」と混同され、良くないものとして捉えられることがある。確かに揉めは起こらない方が良いし、誰も揉めたくなどない。しかし、主張することは悪いことではない。互いに上手に主張し双方が納得して試合を進めることは間違っていない。また、かるた展望64号の「競技規程に学ぶ競技かるた(二)」においても主張が取り上げられ、主張の在り方について非常に有意義な文章が書かれている。(非常にためになるのでぜひ読んでください。持っていない人は持っている人に借りてください。)
 私は「揉めるから主張しない」ではなく、「揉めないために主張する」を目指すべきだと考える。本稿では「揉めはなぜ発生するのか」、「上手な主張の仕方」について検討する。
 なお、以下では細則は(一社)全日本かるた協会 競技規程細則を指すものとする。

2.揉めはなぜ発生するのか
 そもそも、揉めはなぜ発生するのか。それは「判定を競技者間で決定する」(細則第二条)ことに起因する。そう、競技かるたには審判が判定するというシーンは稀なのだ。細則では第二条<補足>に「競技かるたでは、競技者同士が互いの動きを良く見極めると共に、信義誠実の精神に則って冷静に主張しあい、迅速に問題解決することを旨とする。」とあり、「お互いにちゃんと見て誠意をもって主張して解決しなさい」とある。また、第三条では「競技に際しては、互いに相手を尊重するとともに、礼節を重んじなければならない。」とあり、「相手を尊重しましょう」とある。つまり、細則では主張することは是としている。主張自体が悪ではない。お互いにちゃんと見て誠意も持って冷静に主張し、相手の主張も聞き、認め合うことで真実にたどり着くことは間違ってはいない。これができないから揉めるのだ。
つまり揉める原因は
 「どちらかが相手の主張を聞かない、聞く気がない、もしくは容認できない」
ことにあるのだ。

3.揉めの種類と上手な主張の仕方
 相手の主張を聞かない、聞く気がないのは論外として、なぜ容認できないと感じるのだろうか。その理由は主に2つだと考えている。
①ルールを知らない
②認識した情報が不足している

①ルールを知らない
 例を示すほうが早いので以下に実際に発生した揉めの例を挙げる。
例1-1.手首で札を押さえて取ったという主張に対して、手首は有効手の範囲ではないとして揉めたという事例
 細則第十三条二項に「有効手は、左右どちらか一方の、手首より先のすべての指、手の平、手の甲とするが、競技中に有効手の左右を変更することはできない。」とあり、手首は有効手の範囲外である。よって取りは成立しない。これを知らないために起きた揉めだ。

例1-2.「自陣にあった出札が双方触らないまま、隣の組から飛んできた札に押されて競技線外に出た。その後相手が触った。」これを相手に取ったと主張され、揉めた事例。
 細則第二十二条 第一項には「不可抗力によって出札が競技線の外に出てしまった場合は、出札を持札としていた者が取ったものとする。<補足>不可抗力による札の移動とは、隣の競技者の飛ばした札が接触した場合などを指す。」とある。読んで明らかであるが、これを知らないことにより起きた揉めである。

 これらはルールである競技規程及び競技規程細則をお互いにちゃんと読んで理解していれば発生するはずのない揉めである。競技者としてルールをきちんと理解するよう努めることを怠ってはならない。また、細則第二条補足では「競技者は、本規程の解釈等で必要がある場合、審判員にこれを確認することができる。」とあり、ルールは審判員に確認できる。相手が知らなくても自分がちゃんと知っていれば自信をもって確認し、正しい主張を通すことができる。正しいルールなのだから、これを主張することに臆する必要は一切ない。

②認識した情報が不足している
 起きた事象の認識が不完全であり、双方が自分の有利なように解釈してしまったことが原因で揉めが発生する。この場合は正しい認識のために不足している情報を互いに補完する主張をすることで揉めを回避することができる。
 主張において大事なのは、自分が取ったと自分の取りを押し付けることではなく、「自分の持っている情報と相手の情報を合わせて、正しい解答を導き出すこと」だ。そのためには「相手に与えるべき情報を理解できるように伝えること」、「相手の主張を認め、協力して問題を解決すること」が大事となる。

4.まとめ
 揉めはよくないが、主張することは悪ではない。本来、判定は競技者間で決定するもので、お互いの認識を共有して問題を解決するのは正しい行為である。
<揉める原因>
・どちらかが相手の主張を聞かない、聞く気がない、もしくは容認できない
・自分の主張を相手に押し付ける
<揉めないために必要なこと>
・ルールを正しく理解する努力を怠らないこと。
・競技者同士が互いの動きを良く見極めること。
・お互いが持っている情報を合わせて、協力して正しい解答を導き出すこと
・相手に与えるべき情報を理解できるように主張して伝えること
・相手の主張を尊重して認めること。

 最後に、揉めが嫌だからという理由で主張することを怖がってはならないと思う。互いにルールを熟知し、動きを良く見て、正しく主張し、互いの主張を尊重して、協力して双方が納得のいく判定をして競技を楽しみたいものである。

参考
「競技規程に学ぶ競技かるた(二)」かるた展望64号p57、(一社)全日本かるた協会、(2016) (一社)全日本かるた協会 競技規程細則(http://www.karuta.or.jp/)アクセス日:2017/5/27

初稿:2017/5/27