決まり字変化を考慮した
出札の決まり字長さの分布割合に関する一考察

最終更新日:2015/12/13
執筆者:華郷(@ka_kyo)

1. はじめに
 競技かるたにおいて、その音まで聞いたら1枚が確定して取ることが出来る「決まり字」が存在する。決まり字の長さ毎に1字札、2字札と分類できその枚数は決まっている。一方で、決まり字は試合が進むごとに変化する。これは、例えば、「う」から始まる札は“うか”“うら”の2枚しかなく、どちらか一方が読まれると、もう一方は“う”を聞くだけで確定することが出来る。これは同じ札は2回読まれることがないためである。この変化を「決まり字変化」という。この決まり字変化を考慮した場合、実際の試合では決まり字が長い札(大山札など)がそのままの決まり字で出札として出る割合は元の割合より低く、1字決まりで出札となる割合は高くなるということは、かるた競技者であれば誰しもが直感的に理解していることである。しかしながら、どの程度が1字決まりとして出札となるかを検討した事例は見当たらず、ほとんどの競技者が感覚や経験に頼っているのが現状である。そこで、本稿では試合における決まり字変化を考慮した出札の決まり字長さの期待値の検討を試みたのでここに報告する。
 本稿では簡単のため自陣相手陣などの影響、同音札が同陣にあることによる決まり字変化、同音から始まる札が場に2枚以上ある場合などの取り方の変化による影響などは考えないものとする。

2. 元々の決まり字からの考察
百人一首は表1に示すような決まり字の分布を持ち、2字札42枚と最も多く5字札が2枚と最も少ない。この枚数から考えると2字札および3字札の重要性の高さが伺える。一方で1字札の狙いの重要性はかるた競技者なら誰しもが感じているところであり、元と決まり字で評価するのは当然ながらしっくり来ず、決まり字変化により1字が増加してくる試合の感覚とも一致する。



図1 元の決まり字数と枚数(円グラフ)

3. 決まり字変化後の出札の決まり字による考察
 決まり字変化後の決まり字ごとに出札枚数の期待値を考える。このために図2に示すようなフローチャートに従い決まり字別枚数計算プログラムを構成した。この決まり字別枚数計算プログラムを50000試合分試行して試合による枚数ばらつきを評価する。


図2 計算フローチャート

3.1. 1試合分の期待値と分布
 本稿では実際には発生しないが仮定として100枚すべて読まれたとし、決まり字別の出札枚数期待値を算出した。この結果を図3に示す。2字札が最も多く約47%、ついで1字札の約27%、3字札の約19%となった。このことから試合を通してでは2字札の取りの重要性が見て取れる。一方で1字札と3字札では1字札のほうがはるかに重要という訳ではないということが示された。
 また、決まり字ごとのヒストグラムを図4に示す。試合ごとのばらつきは見られるものの、そのばらつきはそれほど大きくないと言え、どの試合でも2字札>1字札>3字札となる確率が高いであろうことが伺える。


図3 1試合分の決まり字別出札期待値


図4 決まりごとの分布(1試合分)

3.2. 試合序盤(20枚分)の期待値と分布
 試合の序盤だけを見た決まり字別出札枚数期待値を図5に示す。2字札が最も多いことに変わりは無いが、3字札の枚数が1字札に比べて多く、1字札は4字札と6字札の合計と大きく変わらないことが伺える。試合序盤における2字札、3字札の重要性が伺える。  また、決まり字ごとのヒストグラムを図6に示す。2字札>3字札であるが、1字札、4字札、6字札に関しては1試合分(図4)ほど明確な差は無い。


図5序盤20枚の決まり字別出札期待値


図6 決まりごとの分布(序盤20枚)

3.3. 試合終盤(ラスト20枚)の期待値と分布
 試合の終盤だけを見た決まり字別出札枚数期待値を図7に示す。試合序盤とは一変し1字札が最も多く、次に2字札が最も多く、1字札と2字札を合わせると90%近くになる。ほぼ1字札と2字札と言っていいだろう。終盤の1字札と2字札の重要性が伺える。図4に示すヒストグラムでも1字札と2字札には大きな差が無く半分(10枚)を超えることも珍しくないことが伺える。一方で3字札は5枚を超えることはほとんど無く0枚であることも珍しくないことが分かる。


図7 終盤20枚の決まり字別出札期待値


図8 決まりごとの分布(終盤20枚)

3.4. 全体考察
 試合全体で見た場合でも、序盤、終盤と分けてみた場合であっても2字札が40%~50%と非常に多く重要性が高いことが伺えた。一方で1字札は試合終盤には多いものの序盤には少なく、試合序盤に他の多くの札を早く取りながら1字札を速く取る技術の重要性は確認できなかった。一方で試合序盤は3字札の重要性が比較的高いことが確認できた。この考察には1字札と3字札の決まるタイミングが1字札のほうが早いという点が考慮されて無いことは十分に注意する必要がある。

4. まとめ
 決まり字変化を考慮して出札の決まり字長さの期待値と確率分布を検討した。その結果2字札の重要性と1字札の試合展開が進むにつれて重要性が飛躍的に増大することが定量的に確認できた。あくまで、簡単化した場合の一考察であり、分かれ札や同音札が多くあり、聞き分けが必要な場合などは考慮されていないため、2字札を一括りにすることは難しい。

追記
 本稿の考察の後、試合が進むにつれての決まり字期待値を算出したので追記として報告する。  計算結果を図追1に示す。試合進行につれて決まり字が短くなっていくことが示されており、これは感覚と一致する。期待値としては1枚目から3字を切り、68枚目で2字を切ることが示された。また、50枚目まではほぼ一定の割合で決まり字が短くなるように伺えるが、50枚をすぎたあたりから急激に加速することも分かった。試合終盤になるにつれて急速に取りを変化させていく必要性が見て取れる。


図追1 試合進行と決まり字長さ期待値の関係

初稿:2015/12/13