送り札における効用の最大化

最終更新日:2016/11/27
執筆者:華郷(@ka_kyo)

1.はじめに
 送り札は競技かるたの試合運びの戦略において、大きな位置を占める要素のひとつである。何を送るかはその人のかるたを表すと言っても過言ではない。しかしながら、「その選択基準は何なのだろうか」「送り札の正解とは何なのだろうか」と言う疑問を持った人も少なくないはずである。そこで何を送るのが正解かのひとつのヒントになるかと思い、本稿を記すに至った。

2.効用の最大化
 送り札における正解とは送り札による効用を最大化することにあると考えられる。効用最大化とはWikipedia1)によると「経済学(特にミクロ経済学)で用いられる分析手法である。(中略)効用最大化問題を解くとこによって経済主体の行動を理論化したり予測することができる。1)」とある。また、「消費者の効用最大化行動には予算制約が伴う。効用最大化問題は制約付き最適化問題と呼ばれる数学的な問題に帰着される。1)」とある。これは、「送る権利のある競技者による送り札の選択には送る権利のある枚数と言う制約が伴う。送り札の選択問題は枚数制限付き最適化問題に帰着する事ができる。」と読み替えられる。ここでは数学的に厳密に記述するのは難解であるので、簡単な表現での適用に留める。

3.送り札への適用
 送り札における効用とはなんだろうか。それは取得枚数を増やすことだろう。送り札による効用を以下に羅列する。
・相手陣にあることで自陣にあるより速く取得できる札を送る。
・音ごとに見たときに相手陣にあることで優位に立てる形を作れる札を送る。
・場全体を見たときに相手陣にあることで優位に立てる札を送る。
・相手が速い札を送ることで相手の取得枚数を減少させる。
・相手の暗記に負担になるような送り札を選ぶことで相手の全体的な取得率を低減させる。
など
個人個人で効用は様々であると思うが主な効用この通りである。基本は「自分が取れる枚数を増やし」、「相手の取れる枚数を減らすこと」が効用となる。簡単に数式化すると以下のようになる。

(送り札による効用)=(自分の取れる札の増加枚数)ー(相手取れる札の減少枚数)

それぞれが1枚とも限らず、1枚を下回ることもあれば1枚を超えることもある。また、マイナスになることもある。つまり、1枚の送り札が大きな効果を生むことあれば、自分に不利に働くこともあり、十分に考えて送る必要がある。

4.もう一つの制約
 「送る権利のある枚数と言う制約が」と述べたが制約には送る枚数以外にもう一つ存在する。それは「送るための思考時間」である。競技規程細則2)では
・第十六条「競技者は、原則として札の整理以外に読みを待たせることはできない。」2)
・第二十六条 第二項 「送り札の選定は速やかに行うこととし、むやみに長考してはならない。」2)
とあり、札を送るために読みを待たせることは最小限にしなければならない。場の状況などを考慮し効用が最大となる札を送ることが最良であるが、短い時間の間で最良の解を常に導き出すことは不可能に近い。つまり、「時間の制約の中でできる限り最善と考えられる送り札を選定する」ことが求められる。つまり、ベストではなくてもベターな送り札をする必要がある。
 時間の制約には読みを待たせること以外にももう一つ考慮すべきことがある。それは「相手に時間を与えること」だ。暗記をする時間、お手つきのダメージか回復する時間など相手に時間を与えることで相手が有利になったり、不利が軽減されたりする。できる限り早く送って自分も有効に時間を使うことが望ましい。できる限り早く送るためには「送り札を決めるための指針」が決まっていることが必要だろう。

5.最後に
 最後に重要なのは「札移動による枚数変化が含まれていないこと」である。”取ったこと”、”お手つきしたこと”にによる札の枚数変化に加えて送り札によって場を変化させることでより有利に試合を展開できる点にある。本稿が「送り札における正解」の一助になることを願いつつ、皆さんの正解を見つけてほしいと思う。

参考文献
1)Wikipedia 効用最大化 (https://ja.wikipedia.org/wiki/効用最大化) アクセス日:2016/11/27
2)(一社)全日本かるた協会 競技規程細則(http://www.karuta.or.jp/)アクセス日:2016/11/27

初稿:2016/11/27