スキルの定義と競技かるたにおけるスキル

最終更新日:2016/2/6
執筆者:華郷(@ka_kyo)

1.スキルとは
 競技かるたにおいて、「スキル」と言うと何を連想するだろうか。「速く反応することだ」と言う人もいるかもしれないし、「聞き分ける能力だ」と言う人もいるだろう。「相手より速く取ることすべてだ」と言う人もいるだろう。そんな多種多様にわたる「スキル」を要求される競技が競技かるたなのである。では、一般的にスキルとはどのような物であるだろうか。文献(1)に依れば、

「心理学者のE.R. ガスリーは(中略)スキルとは、最高の正確さで、またしばしば最小の時間とエネルギーあるいはこれらの両方の消費で、あらかじめ決められた結果を生じるように学習された能力である」
とある。ここで重要となることは「最高の正確さ」「最小の時間」「エネルギー」「あらかじめ決められた結果を生じる」「学習された能力」の5つのキーワードである。本稿ではこのキーワードをトピックに競技かるたにおけるスキルのひとつの考え方について話題を進めていく。

2.「あらかじめ決められた結果を生じる」
 スキルとは「あらかじめ決められた結果を生じる」ことが必要となる。スキルには達成目標が無ければならない。例えば、“相手陣右下段の札を払う”という行動の目標や“聞いた音を判断する”と言った目標がある。まず、「何を成さなければならないか」が決まらなければスキルは存在し得ないものである。

3.「学習された能力」
 スキルは必ず学習されうるものである。学習により習得され習熟されるもので物である。「あらかじめ決められた結果」に対して「正確さ」が向上することはスキルにおいて重要な学習過程のひとつである。学習されえないものはもはやスキルとは言わないであろう。

4.「最高の正確さ」
 スキルは正確に実行されなければならない。その正確さはスキルにおいて重要視される。例えば、札直の精度やお手つきの少なさがこの正確さに当たるであろう。払い残しやお手つきはずさんなスキルとなる。

5.「最小の時間」
 スキルは最小の時間で遂行されなければならない。札を速く取ると言うことにおいては、最小の時間でスキルが正確に完了することが重要となることは明白である。いくら正確さが高くても時間を要するものは習熟されたスキルと言うことは難しい。一方で速度を重視すると正確さのずさんな運動が生じる。双方を両立させることは難しく多くのエネルギーを要することになる。

6.「エネルギー」
 エネルギー、これを最小化することも重要である。競技かるたにおいては1試合の間、何度もスキルを遂行しなければならない。また、大会ではこれを何試合も連続で行うことになる。それぞれのスキルの運動に対するエネルギーを最小化させなければすぐにばててしまうだろう。
 エネルギーの最小かは必ずしも体力的なものに限らない。競技かるたにおいては、場にある50枚の札を取ると言うことは50通りの動作を準備する必要があるということである。そのためには多くのスキルを準備する必要がある。例えば1字札をすべてのエネルギーを使用して狙った場合、とても速く取れるとしよう。その時、他の札は全く取れなくなる。一方で多くの札を取るために、エネルギーを分散させたとしよう。そうすれば1字札のスピードは低下してしまう。つまり、自分の持ちうるものは限られており、様々なスキルを準備しなければならない時、そのすべてを特定のスキルに使用することは困難であるということだ。その模式図を図1に示した。箱が自分の持ちうる絶対量であるとしよう。図1(a)に示すように1字札に大きな量のエネルギーを使用すると他が入らなくなってしまうのが分かる。一方で図1(b)に示すように1字札に要するエネルギーが小さければ、他の要素も入れることが出来る。
 このことから「同じ正確さ、時間で達成されるスキルのエネルギーを小さくすることはスキルの習熟において重要である」ことが言えるだろう。エネルギーの最小化とはスキルを遂行する際に必要なエネルギーを小さくし、多くのスキルを使用する高いレベルでの実行を可能にすることだと言える。

図1 エネルギーの比較

7.まとめ
 競技かるたにおいてスキルとは、単一のスキルにおいては「最小の時間をもって最高の正確さを発揮し、決められた結果を生じさせるもの」であり、そのスキルは練習により習得ならびに習熟されうるものである。また、実際の試合においては多様なスキルを要するため、「そのエネルギーを最小化し、多様なスキルを使用できるよう習熟に勤めなければならないもの」であると言えるだろう。

参考文献
1)Schmidt,T.A., 調枝孝治監訳『運動学習とパフォーマンス:理論から実践へ』大修館書店、1994年、p.4-5

初稿:2016/2/6