自動化と取り動作の高速化

最終更新日:2016/12/22
執筆者:華郷(@ka_kyo)

1.はじめに
 競技かるたは読まれた札を”相手より早く取る”ことが重要な競技である。そのためには速く取るスキルは必要であり、多くの札を速く取れるように練習をする。本稿では「速く取るということを実行するために必要な練習とは何だろうか」と考えたときに、スキルの習得における「自動化」の考え方が適用可能だと思ったので、取り動作へ適用してみるものである。

2.スキルの習得と自動化
スキルの習得において『自動化』は重要な要素である。例えば、自転車に乗るという動作を習得するにあたり、はじめは倒れないこと、ペダルをこぐことを意識的に行わないと自転車を前に進めることは難しい。しかし、ほとんどの皆さんは漕ぐことを意識せず自転車に乗っていると思うし、安全確認など、前に進める動作以外のことと並列して行っているだろう。これは自転車をこぐと言う動作が自動化されて、多くを意識せずともスキルの発現が可能となるレベルに習熟されていることを示している。このスキルの習得には認知、連合、自動化の三段階があり、認知段階は「どうすれば自転車が倒れずに前に進めることができるかを知る段階」、連合段階は「自転車を漕ぐことか可能になった段階」、自動化段階は「意識せずとも自転車に乗ることができる段階」となる。つまり、認知は”知る”、連合は”実行する”、自動化は”習熟する”と言える。

3.札を取ることと払うこと
 取り動作における自動化を論じる前に、札を”払うこと”と”取ること”の違いを明確にしておく。かるたにおいて重要となるのは札を取る動作でありこれは音を認識してから運動を発現し取りを成立させることをいう。札を払うことは払いという札に触る運動動作だけを指し、これは札を取る動作のうち発現させる運動そのものを言う。これは「競技かるたにおける取り動作のスポーツ性に関する検討」も参考にしてほしい。
 つまり、札を払うことは札を取ることに内包される。これは自転車を漕ぐことは自転車に乗る動作の一部であることと似た対応関係になる。意識して漕がないと自転車を前に進めない状態ではうまく自転車に乗れないのと同様に、払いを意識しないとできない状態では取り動作に支障をきたす。この状態では同時進行すべき他の動作(聞くこと、判断することなど)との競合を起こし、動作自体が遅くなったり、手が止まったり、お手つきしたりと言ったエラーを引き起こすこととなる。(自転車の場合は安全確認が疎かになり衝突事故を起こす、安全確認を重視すると転倒するなどのエラーとなる。)

4.取り動作の全体の自動化
 取り動作の自動化のレベルを高めることはお手つきなどのエラーを減らし、取り動作を高速化させる。では取り動作はどのように自動化すればいいだろうか。
 「競技かるたにおける取り動作のスポーツ性に関する検討」でも述べたが取り動作はいくつかのフェイズに分割できる。取り動作はそのそれぞれを並列処理、並びにスムーズに連続処理する事が求められる。つまり、すべてのフェイズにおいて高いレベルで自動化されていれば容易に並列処理できる。また、どの処理を並列させるかも自動化されている必要がある。連続処理の自動化は自転車の例では「ブレーキをかけて停車する→足をついて転倒を防止する」と言った処理になる。この連続性の処理が遅滞すれば転倒してしまう。かるたにおいて、個々のスキルの自動化のレベルが不十分であれば「3字札で2字目を聞いて札の方向に手を伸ばしたが、手を動かす処理に負担がかかり3字目に対する判断が遅れたたために空振り、お手つき、手が止まる」というエラーを引き起こすことになる。また、連続処理の自動化がされていなければ「判断はできたが、判断した後に払うという動作が自動化されていなかったために払えなかった」というエラーが発生することもある。

5.認知、連合段階での練習
 認知、連合段階では最終的に習得したいスキルが何なのかを明確にすることも必要だ。やみくもに払い練などの練習をするのではなく、習得したいスキルに対して何をすればスキルが実現できるかを考えて理解する(認知段階)、実際に行うことを意識して実行できるようになる(連合段階)を経て初めて、多くを意識せず実行することが可能な自動化段階へと達する。
 例えば、払いではいきなり速く払うのは難しいが、習得したい払いをはじめはゆっくりどう動かせばよいかを認知し、それを意識して少しずつ速くしていき、最後に意識しない段階へと習熟度を上げることで自動化が可能となる。

6.自動化レベルの向上
 自動化レベルを向上させるためには練習である。もっとも単純な方法は反復練習、要するに数をこなすことである。払いに関しては払い練の数をこなすことはひとつの練習の方法だ。しかし、払いの自動化レベルの向上だけでは取り動作の自動化レベルの向上には不十分だ。払いを音と連動させる、音を聞くことと並列処理できるようにする必要がある。これは試合の中で身につけていく技能だ。しかし、いきなり大量に札のある状況で行うのは難しい。特定の状況を想定した練習をすることも効果を発揮すると考えられる。これは練習したい状況を十分意識できるようにすることで、「狙っていたらできる段階」での練習が出来る。習熟度が上がれば「狙わずともできる段階」へ移行し試合でも使えるスキルになるだろう。

7.まとめ
 スキルの習得には認知、連合、自動化の三段階があり、自動化の段階まで達するとスキルを意識せずとも実行できる。「聞く、判断する、払う」を同時に行わなければならない競技かるたの取り動作では自動化段階に達しなければ高速に実行することは難しい。また、複数のスキルを並列して実行することも重要となる。
 また、未習得のスキルを試合を行うことは多くを意識しても難しく、状況を想定した練習を行うことが有効であると考えられる。これはスキルの習得における三段階を経るを言う意味で有効であると考えられる。

参考文献
1)伊達萬里子、他「新・スポーツ心理学 やさしいスチューデントトレーナーシリーズ2」嵯峨野書院、2015、p.32-33

初稿:2016/12/22